子どもが個人再生をした場合について|親ができること
個人再生手続は、支払不能のおそれのある債務者が、借金の返済義務などの全ての金銭支払義務、つまり「債務」の一部を、原則3年(最長5年)で返済する再生計画に従った返済を終えれば、残る借金が免除される債務整理手続です。
自己破産手続に伴う様々なデメリットを回避することができる便利な債務整理手続ですが、裁判所を用いることや、一部とはいえ借金の支払負担は残ることから生じるデメリットがあります。
そのため、子供(息子や娘)が個人再生をすると聞いて、個人再生に追い込まれた家族にどのような援助ができるのかと考えている方や、逆に、親である自分にも悪影響が及んでしまうのではないか不安になってしまう方もいると思います。
ここでは子供(息子や娘)が個人再生をした場合に考えられる、親がすることのできる援助や、親への影響を説明します。
このコラムの目次
1.個人再生をする子供へ親ができる援助
(1) 個人再生の費用の援助
個人再生をするには、弁護士費用が、相場としては40万円から50万円ほどかかります。
裁判費用は総じて数万円程度ですので、さほど気にする必要はありませんが、個人再生手続で裁判所を手助けする「個人再生委員」が選任された場合には、その報酬として15万から25万円ほどが更にかかります。
給料の差し押さえがされそうになってしまっているときなど、一刻も早く個人再生手続の申立が必要な場合は、親が弁護士費用や個人再生委員の報酬を用意することで、子供が迅速に手続を申立て、給料を差し押さえられてしまうことを回避することができます。
(2) 必要不可欠な出費の肩代わり
子供が自分の生活を守るために支払わなければならない出費が、個人再生手続上の規制により禁じられてしまうことがあります。
そのような場合に、親が肩代わりをすることで、子供を手助けすることができます。
滞納している家賃や、自動車ローンがある場合、個人再生手続をすると、貸主から退去を要求される、また、自動車を自動車ローン債権者により処分されてしまうおそれがあります。
しかし、個人再生手続では、貸主や自動車ローン債権者を手続から除外することも、優先して返済をすることもできません。
個人再生手続では、債権者は債権額に応じて公平に扱われなければならないとされているからです。これを「債権者平等の原則」と呼びます。
債権者平等の原則があるため、特定の債権者を手続から除外することはできず、強制的に全ての債権者が手続の対象となります。
また、「偏頗弁済」と言って、支払不能後に特定の債権者にだけ優先返済することも禁止されています。
そこで、子供以外の第三者、特に親が、滞納している家賃や自動車ローン残高を肩代わりして支払うことで、子供が賃貸物件に住み続けられるように、もしくは、自動車を持ち続けられるようにすることができます。
このように、本人に代わって支払うことを「第三者弁済」と言います。
実務上、しばしばされている重要な援助方法ですが、注意点が一つあります。同居しているなど家計を同一にしている場合には、子供の財産から親を迂回して支払っているだけであり、事実上偏頗弁済ではないかと疑われかねないのです。
弁護士の助言に従い、そのような疑いを持たれないよう注意して第三者弁済をしてください。
(3) 再生計画に基づく返済への援助
個人再生手続では、裁判所に再生計画を履行可能であると認めてもらわなければ、借金の返済負担が軽減されません
また、返済に行き詰まってしまうと、借金残高全額が復活し、一括請求されてしまうおそれがあります。
もっとも、再生計画の履行可能性は、手続をする債務者本人の収入や財産以外からの援助を考慮することも可能です。
親の収入や財産を明らかにする資料を提出し、場合によっては、再生計画期間中は援助を確実に実行するという念書も提出すれば、子供の再生計画に基づく返済の援助をすることができます。
2.個人再生手続をする子供にしてはいけないこと
財産を譲り受けたり、名義を変更したりしてはいけない
子供が財産を持っていると、清算価値として返済額が高額になってしまい、返済額が膨らむおそれがあります。
しかし、子供の清算価値を減らすために、子供が持っているマイホームなどの不動産や自動車などを譲り受けたり、安値で買い取ったり、名義を変更したりしてはいけません。
このような行為は、自己破産手続では「詐害行為」と呼ばれています。債権者への配当を減少させるために、原則として借金の免除が許されなくなるとされている違法行為です。
上記のような詐害行為をしてしまった場合、裁判所に対しては、受け取ってしまった財産を、あくまで子供の財産であるとして申告しなければなりません。結局、財産を移したところで、清算価値は減少しないことになります。
もし申告しなければ、最悪の場合、刑罰が科せられるおそれすらありますし、そこまでいかずとも、個人再生手続が失敗するリスクが生じてしまいます。
親から借金をしている場合に、手続に巻き込まないよう要求してはいけない
子供に対してお金を貸している場合、親子間の借金も個人再生手続の対象となります。そのため、裁判所から手続の連絡が来ますし、借金の有無や金額などについての申出をするよう要求されます。
当然、借金も減額されてしまいます。
しかし、子供に対し、親を自己破産という面倒なことに巻き込むな、借金もちゃんと返すようにとは言わないであげて下さい。
債権者平等の原則がある以上は、債権者全員を手続の対象とせざるを得ません。
わざと債権者である親を裁判所に申告しなかったことが発覚すれば、違法行為をしたとして、子供が個人再生手続をすることができなくなりかねないのです。
親にだけ優先返済をさせてはいけない
これは、家賃などの肩代わりで説明した偏頗弁済の問題です。個人再生手続に巻き込まれる前に、親への借金だけ返済させては、偏頗弁済になってしまいます。
偏頗弁済があると、最悪、子供が個人再生手続をすることができなくなります。
また、清算価値に偏頗弁済の金額が上乗せされてしまいますので、返済額が増加するおそれがあります。
3.子供が個人再生をしたことによる親への影響
(1) 連帯保証人となっている場合
子供の借金の連帯保証人(保証人)となっている場合、その借金が住宅ローンか、それともそれ以外の借金(例えば、奨学金や滞納している家賃)かで、子供が個人再生手続をした場合の、保証人である親への影響は異なります。
(2) 子供の住宅ローンの連帯保証人となっている場合
子供の住宅ローンの保証人となっていても、子供が住宅資金特別条項という制度を用いて個人再生手続をした場合には、特に問題は生じません。
住宅資金特別条項とは、本来なら住宅ローン債権者により抵当権に基づいて処分されてしまう住宅ローン残高の残るマイホームを維持したまま、個人再生手続をすることができる制度です。
そして、この制度の効力は、保証人にも及ぶため、住宅ローンの保証人である親は、子供が住宅ローンを支払えなくなってしまわない限り、返済を迫られることはありません。
(3) 子供の住宅ローン以外の借金の連帯保証人となっている場合
子供の奨学金などの借金が個人再生手続により減額されたとしても、保証人となった親の支払義務は減額されません。
住宅資金特別条項を利用した場合の住宅ローンを除き、個人再生手続は、保証人には影響を及ぼさないのです。
債権者は、保証人である親に、保証されている借金の残高全額を一括で請求してきます。
もっとも、債権者と交渉して、従来子供が返済していたような分割返済にしてもらうことも可能です。
さらに、分割返済が認められた場合には、子供も、再生計画に基づく返済を並行して行いますから、親子の返済額が借金残高に到達すれば、借金残高全額を支払わないで済みます。
(4) 親も債務整理をせざるを得なくなる場合
上記の保証人として借金残高を一括で支払わざるを得なくなったものの支払えない場合などには、親も債務整理をする必要が生じます。
一般的に、個人再生手続は、働き盛りの年齢の方がマイホームを維持するために用いますので、個人再生をする人の親は年配の方が多いでしょう。
年配の方が自己破産手続や個人再生手続をする場合の注意点を以下で説明します。
自己破産
自己破産手続では、家財道具などを除いて、99万円を超えた現金や20万円を超える価値を持つ財産が、債権者への配当のため裁判所により処分されてしまいます。
たとえば、退職金は、もらえるか不確実なために、一般的には8分の1だけが没収の対象となります。
しかし、定年間近の場合にはその割合が4分の1に上昇してしまうおそれがあり、また、すでに支給されていれば、ほとんどが没収されてしまいます。
生命保険の解約返戻金も、年配の方は長年にわたり保険料を支払ってきていますから、非常に高額となってしまっているおそれがあります。
親のマイホームがある場合、自己破産手続では、住宅ローンの有無にかかわらず手放すことになってしまいます。
個人再生
個人再生手続ならば上記の財産を残すことは可能ですが、上記のとおり、自己破産手続で処分対象となる財産が高額になりがちなので、清算価値を基準とした返済額が高額となり、再生計画が認められないおそれがあります。
もっとも、再生計画上の返済が履行可能でさえあれば、収入が少なくても個人再生は可能です。
子供の保証人としての支払負担は、子供の再生計画上の返済によっても軽減されますし、預貯金や退職金、生命保険の解約返戻金などの財産を取り崩すことで、少ない収入を補うこともできますから、決してあきらめずに、弁護士に相談して下さい。
4.息子・娘など、家族の個人再生は一緒に弁護士へ相談を
個人再生手続は、自己破産手続に比べるとデメリットが少なく、その影響も比較的抑制されているため、子供が個人再生手続をしたとしても、親に対して悪影響が及ぶおそれは大きくありません。
ただし、保証人となっている場合は親も債務整理をせざるを得なくなるおそれがありますし、手続費用の捻出や、再生計画上の返済を履行するために、親の援助が必要となることも十分あり得ます。
子供が突然裁判所により債務整理をせざるを得なくなったということにショックを受けてしまい、詐害行為などをしないよう注意してください。
裁判所を利用する専門的な手続ですから、法律の専門家である弁護士の助力は非常に重要となります。
泉総合法律事務所では、個人再生により借金問題を解決した実績が多数ございます。是非ともお気軽にご相談ください。
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