個人再生をすると奨学金の支払いはどうなる?
近年、「奨学金を利用して大学や大学院などに進学したけれど、卒業後に返済ができない」という方が増えて、社会問題にもなっています。
奨学金には減額償還や償還猶予の制度もありますが、減額や猶予は根本的な解決にはならず、「結局自己破産しかないの?」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、自己破産をしなくても「個人再生」によって奨学金問題を解決できる可能性があります。
以下では、個人再生によって奨学金問題を解決する方法を解説していきます。
このコラムの目次
1.奨学金の債務整理の難しさ
奨学金を返せないとき、放っておくとどのようになるかご存知でしょうか。
実は、奨学金の取り立ては、サラ金(消費者金融)より厳しい面があります。
支払いをしなかったら本人宛に督促が届き、そのうち、債権回収会社などに業務委託されて、債権回収会社から一括払い請求の通知が届き、最終的には裁判を起こされます。
裁判で判決が出たら、給料や預貯金などの資産を差し押さえられます。
本人が返済しなければ連帯保証人(多くのケースでは親)に一括請求されてしまいます。
連帯保証人である親が返済できなければ、同じようになってしまうでしょう。
また、奨学金の貸付元である日本学生支援機構は「任意整理」に応じません。
サラ金であれば話し合いをして利息をカットしてもらい、返済期間を調整して和解することができますが、奨学金の場合にはそういった柔軟な解決方法を採れないのです。
奨学金は、借りるときは優しいイメージがありますが、返すときには非常に厳しい制度と言えるでしょう。
2.個人再生について
(1) 個人再生による減額率
このような難しい借金である奨学金問題を解決できる制度として、「個人再生」があります。
個人再生とは、民事再生法に従って借金を大きく減額できる手続きです。個人再生をすると、借金が約5分の1にまで減額されます。
個人再生をした場合の借金減額率は、借入総額によって異なります。具体的には以下の通りです。
- 借金額が100万円以下…借金は減額されない
- 借金額が100万~500万円…100万円まで減額
- 借金額が500万~1,500万円…5分の1まで減額
- 借金額が1,500万~3,000万円…300万円にまで減額
- 借金額が3,000万~5,000万円以下…10分の1にまで減額
なお上記の「借金額」には、以下でご説明する「住宅ローン特則」を使う場合の住宅ローンは含みません。
奨学金の場合、たいていの借入額は1,000万円未満なので、返済額は基本的に5分の1になります(ただし、100万円以下には減額されません)。
ただし、債務者に財産がある場合、その財産額以上は返済しなければならないという決まり(清算価値保障原則)があります。
たとえば、500万円の奨学金があれば返済総額は原則100万円になるはずですが、預貯金などの財産が130万ある方の場合には、返済額は130万円になります。
奨学金を利用した後、就職して住宅ローンを組んだという方もいらっしゃるでしょう。
個人再生には、住宅ローンつきの家を守れる制度が用意されています。「住宅資金特別条項」という特則であり、通称「住宅ローン特則」と呼ばれます。
住宅ローン特則を利用すると、住宅ローンについては減額せずに支払いを継続することで持ち家を守ることが可能です。住宅ローン以外の奨学金やカードローンなどのみを減額し、家の所有権は失わずにそのまま住み続けることができるのです。
(2) 債権者平等の原則について
個人再生では「債権者平等の原則」が適用されます。これは「すべての債権者を平等に扱わなければならない」という決まりです。
たとえば、車のローンを組んでいる場合には、車のローンも整理の対象にしなければなりません。この時、車に「所有権留保」がついている場合には、車をローン会社に引き上げられてしまいます。
また、奨学金を含め保証人がついている借金がある場合、個人再生すると債権者が保証人に一括で支払いの請求をするので注意が必要です。
保証人に迷惑をかけたくないからといって一部の負債のみ個人再生対象から外すことは許されません。
(※住宅ローン特則は、この「債権者平等の原則」の例外規定です。)
3.奨学金を個人再生する効果
(1) 基本的に5分の1まで圧縮してもらえる
先述しましたが、奨学金を含めた負債総額(住宅ローン除く)が1,500万円以下の場合、個人再生をしたら基本的に5分の1にまで負債を減額してもらえます。
奨学金以外にも負債があり、例えば総額が1,500万円以上3,000万円未満であれば、基本的に300万円にまで減額してもらえます。
個人再生によって減額された負債は、原則として3年の間に分割して支払います。3年での支払いがどうしても苦しい方の場合には、支払い期間を5年にまで延長可能です。
定められた借金額を計画通りに完済したら、残金の支払義務は法的に免除されます。
(2) 家や財産はなくならない
個人再生をしても、自己破産のように家や手持ちの財産はなくなりません。預貯金や生命保険なども失いません。
ただし、車のローンに所有権留保がついていたら、その車は引き上げられてしまう可能性が高いです。
(3) 連帯保証人に請求される
親や親族に奨学金の連帯保証人になってもらっている場合に個人再生すると、日本学生支援機構は連帯保証人に残金の一括請求をします。
奨学金の返済が苦しくなっていることを親に伝えていなかったら騒ぎになってしまう可能性があるので、事前にきちんと親に事情を話しておきましょう。
親も返済が厳しい場合には、親自身も個人再生または自己破産を検討する必要があります。
(4) ブラックリストに登録される
個人再生をすると、いわゆる「ブラックリスト」に登録されます。ブラックリストとは、個人信用情報に事故情報が登録されて一切のローンやクレジットカードを利用できない状態です。
個人再生をすると5~10年間程度ブラックリスト状態になり、期間内はクレジットカードを作ったり新たにローンを借りたりできなくなります。
4.個人再生以外の解決方法
奨学金を返済出来ない場合の解決方法は、個人再生以外にもあります。
(1) 任意整理
任意整理は、債権者と直接交渉をして借金の利息をカットしてもらい、返済期間を調整して支払いを継続していく方法です。
奨学金の貸付元である日本学生支援機構は任意整理の話し合いに応じませんが、一般のサラ金やカード会社なら任意整理の対象となります。
奨学金以外にサラ金やカードなどを利用してしまい借金額が増えすぎているなら、サラ金やカードだけでも任意整理すれば、支払いが楽になって奨学金を含めた返済を継続していける可能性があります。
任意整理のメリットは、債権者平等の原則が適用されないので、自由に適用先の債権者を選べることです。
奨学金を対象にしないので日本学生支援機構から連帯保証人に請求されず、親に余計な心配や迷惑をかけずに済みます。
(2) 自己破産
もう1つの対処方法は自己破産です。自己破産すると奨学金は「全額免除」されます。数百万円でも1,000万円以上でも負債が0になるので、絶大な効果があるといえるでしょう。
ただし、生活に必要な最低限を超える資産は処分・換価され、債権者に配当されてしまいます。
また、自己破産にも「債権者平等の原則」が適用されます。奨学金のみ自己破産の対象から外すことは許されません。奨学金のある方が自己破産をすると、日本学生支援機構は連帯保証人である親に一括請求します。
5.奨学金でお困りの方は弁護士へご相談ください
このように、奨学金問題は必ず解決できます。
しかし、任意整理・個人再生・自己破産の中から最善の方法を選択するには、専門知識が必要です。
連帯保証人の状況によっても、望ましい対処方法が異なってくるでしょう。
泉総合法律事務所では、多くの奨学金トラブルを解決して参りました。奨学金の支払いが出来なくて困っているなら、まずは一度、当事務所の弁護士までご相談ください。
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