裁判による過払い金返還請求のメリット・デメリット
過払い金とは、簡単に言えば、貸金業者に払い過ぎた利息のことです。
過払い金の返還請求は、貸金業者から借金をしていて、元本及び利息を支払っていたものの、利息を支払い過ぎていた人が、貸金業者に対して支払い過ぎた利息の返還を求めることを言います。
過払い金の返還請求は、一般的には、まず、貸金業者との話し合いで始まります。いきなり裁判所に訴えるということはあまりありません。
しかし、場合によっては、裁判で過払い金を返還するよう要求することもあります。
ここでは、裁判により過払い金請求をすることになるのはどのような場合か、裁判による過払い金請求のメリットやデメリットはどのようなものかを説明します。
このコラムの目次
1.過払い金について
そもそも、なぜ、利息の払い過ぎという事態が生じてしまったのかというところから、簡単に説明しましょう。
原則として、借金をした場合には、利息を付けて返済することになります。しかし、その利息が余りに高過ぎると、借金をする側、特に消費者が困窮する原因となってしまいます。闇金などは消費者を食い物にする悪質な貸金業者の典型です。
そこで、法律で、利息には上限が設定されていました。
ところが、かつて、利息の上限を定めた2つの法律の間で、上限利息が異なっていたのです。一般的な、利息そのものについての法律である利息制限法では、おおざっぱに言うと、利息の上限は年間で20%となっていました。
一方、貸金業者の融資業務などについて規制を行っている貸金業法では、29.2%まで利息を取っていいとされていたのです。
あげく、貸金業法は、場合によっては、お金を借りた人が自ら利息を支払った場合には、利息制限法以上の利息についても、貸金業者は利息を受け取ることが許されてしまっていました。
この結果、20%より大きく、29.2%以下の利息については、利息制限法には違反するのに、貸金業法上は合法というあいまいな事態が生じてしまっていたのです。この合法なのか違法なのかはっきりとしていなかった金利を、グレーゾーン金利と呼びます。
このような不明確な規制により、しかも、貸金業者から借金をし、法律の理解に乏しい一般消費者にとって不利な扱いは不適当だということで、法改正や裁判所の判断が相次ぎました。
その結果、貸金業法の利息の上限も、利息制限法と同じく20%に改められ、貸金業者がそれまでに受け取っていたグレーゾーン金利に相当する利息は、法律上の根拠なく受け取ったものであり、返還する義務があることになりました。これが過払い金という訳です。
2.過払い金がある場合とは
過払い金がある場合は、上記で説明したとおり、借金の返済をしていたときに、利息制限法以上の金利に基づいて返済をしてしまっていた場合となります。一方、過払い金が無くなっていないことも条件です。
過払い金が無くなってしまう場合の一つは、時効です。
最後にお金を借りた、もしくは返したなど、貸金業者と最後に取引をした時から10年が経過してしまうと、過払い金を貸金業者に返還するよう請求する権利は、時効で無くなってしまいます。
もう一つは、貸金業者が倒産していないことも上げられます。
過払い金返還請求が怒涛の如く押し寄せた結果、大手貸金業者の中にも倒産するものが発生し、中小業者は現在でも相次いで破綻が続いています。過払い金を返還せよと言っても、無い袖は振れません。
時効や業者の倒産の問題があるため、過払い金の返還請求は、時間との戦いが大きな焦点となります。
3.過払い金を貸金業者から取り戻す流れ
通常、過払い金を貸金業者から取り戻すには、以下のような流れで手続が進むことになるでしょう。
(1)取引履歴の確認
過払い金が疑われる貸金業者から、取引履歴を取り寄せます。
借金をしている消費者としては、いちいちいつ何円を借りて何円を返したかについて、覚えていることはほとんどないでしょうし、また、取引を明らかにする書類も捨ててしまったりして、全てが残ってはいないことでしょう。
そこで、弁護士が貸金業者に対して請求を行い、貸金業者と借主との間の取引内容が逐一記載されている取引履歴を取り寄せて、取引内容を確認するのです。
(2)引き直し計算
取引履歴が到着すると、弁護士は利息制限法に基づいて、いわゆる引き直し計算を行います。
この計算により、払い過ぎていた利息の有無や金額を明らかにします。
(3)過払い金の請求
過払い金の金額が確定したら、弁護士は貸金業者に対して過払い金の返還請求を行います。
まずは貸金業者と弁護士との間で、裁判所を通さずに交渉を行います。
場合によっては、裁判を起こし、裁判所を介して和解するか、あるいは裁判所の判決を仰ぐことになります。
(4)過払い金の返還
交渉で貸金業者が提示した金額について、過払い金の返還請求者である借主が同意した場合や、訴訟提起後に和解した場合、そして、過払い金を返還せよとの判決が確定することで、過払い金の返還がされます。
4.裁判による過払い金請求
さきほど、「場合によっては」裁判で過払い金を請求すると説明しました。
過払い金の請求は、基本的には任意で貸金業者と交渉するところからスタートします。そして、その交渉で満足いく結果が出ない場合に、以下のメリットとデメリットを考慮して、裁判による過払い金返還請求をすることになります。
(1)メリット
裁判により過払い金返還請求をすると、返還される過払い金の金額が、交渉による場合よりも高額になりやすくなります。
交渉により過払い金返還請求をした場合、貸金業者側は、法律論として認められる全額ではなく、一定の減額を求めてきます。自分から支払うのだから、少しはまけてくれということです。
減額の割合は、業者によってまちまちで、過払い金満額の9割というところもあれば、半分程度と言ったところもあります。
ポイントは、ほとんどの場合は、過払い金の返還額に利息まではつけてこないということです。
利息が付くのは借金だけではありません。詳細は異なりますが、過払い金を支払う義務も、借金の支払義務も同じくお金を支払う義務ですから、法律上は利息が付きます。
そのため、仮に裁判で借主の過払い金返還請求が認められた場合には、貸金業者は、過払い金だけではなく、その利息まで支払わなければなりません。
裁判を起こした場合、貸金業者としても満額を支払うよりはましだということで、判決が出る前に、裁判所を通さない交渉の段階より高額の金額を提示して、和解を求めてくることもあります。
(2)デメリット
①過払い金が戻ってくるまで時間がかかる
裁判には、どうしても時間がかかってしまいます。
裁判所でお互いの主張を交わすのは、基本的に1~2か月に1回程度というスローペースです。どれだけ短くても3か月は余計にかかりますし、過払い金が時効にかかってしまっているのではないかと言った法律上の問題点がある場合には、1~2年かかってしまうこともあります。
さらに、裁判に手間取っている間に、相手方の貸金業者が経営悪化したり、最悪倒産してしまえば、回収できる過払い金は少なくなったり、1銭も戻ってこない恐れすらあります。
②交渉の場合よりも低額になってしまう恐れが無いわけではない
骨折り損のくたびれ儲けですが、最悪のケースの一つとして、交渉で債権者が提示した過払い金の金額よりも、裁判所が判決で認めた過払い金の金額の方が低額になってしまう恐れもあります。
裁判となれば、利息を支払わされる恐れが生じる貸金業者も必死です。もし、時効などの法律上の問題点があれば、徹底的に争ってくることがあります。
裁判所が、貸金業者の主張を認め、敗訴してしまえば、金額が減少してしまいかねません。
特に問題になりがちなのが、取引の分断です。同じ貸金業者との取引の中で、いったん借金を完済したものの、ある程度期間を開けて、また借金をする場合は珍しくありません。
ところが、このような場合には、完済により取引が分断され、完済以前の取引により生じた過払い金は時効にかかっているのではないかということがしばしば問題になってしまいます。
取引が分断されていた場合、過払い金の大幅な減額や、最悪、一切過払い金の返還が認められなくなる恐れもあります。そのため、取引履歴の内容によっては、裁判をすべきかどうか、弁護士とよく相談することが不可欠となります。
③裁判費用や弁護士費用が追加で必要になる法律事務所もある
裁判を起こすとなると、裁判所に収める手数料(印紙代)がかかります。また、交渉よりも手間がかかりがちです。
そのため、裁判での請求となると、追加で裁判費用や弁護士費用を要求する法律事務所もあります。
このように、法律事務所によっては、コストが増える点も忘れてはいけません。
なお、泉総合法律事務所では、2018年現在、裁判での請求を希望された場合でも、裁判費用や弁護士費用の追加は不要です。
5.過払い金の請求は弁護士に相談を
これまで説明してきました通り、過払い金の裁判による請求は、返還金額を増やすことが出来る可能性がある一方、少なくとも時間が余計にかかってしまい、取引履歴の内容によっては返還額が減るリスクがあり、弁護士費用の増額により、費用倒れに終わってしまう恐れもあります。
結局のところ、一概に過払い金の返還請求を裁判ですべきとは言えません。関連資料を持って、直接弁護士と相談し、相手方業者の姿勢や経営状況、取引履歴の内容をもとに、弁護士が立てた見通しや方針を参考に、個別具体的に判断していくしかないのです。
泉総合法律事務所は、これまで多数の過払い金返還請求について、任意交渉及び裁判双方の豊富な取扱い経験がございます。
また、裁判を起こしても、弁護士報酬は変わりません。相談も無料となっておりますので、是非、お気軽にご相談下さい。
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