債務整理

自己破産をすると退職金は処分されてしまうの?

自己破産をすると、自分の財産を処分しなければならない場合があります。
処分の対象となる財産の種類は多岐にわたり、ときには「こんなものまで!?」と驚くこともあるかもしれません。

では、「退職金」はどうなるのでしょうか?
退職金で老後の生活を支えようと考えている人もいるでしょう。

まだ手にしていないとはいえ、退職金も財産には変わりありません。
退職や定年が近い人などは、「自己破産をして退職金が処分されたらどうしよう?」と不安に感じたまま、自己破産を躊躇しているかもしれません。

ここでは、退職金と自己破産の関係について解説していきます。

「自己破産したいけれど退職金の扱いが不安」という方は、ぜひ参考にしてください。

1.自己破産で処分される財産について

自己破産をすると借金がゼロになる代わりに、一定以上の財産が処分されてお金に換えられ、債権者への弁済に回されます。

では、「一定以上の財産」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
そして、手元に残せる財産には何があるのでしょうか?

(1) 処分される財産

まずは処分の対象となる財産を見ていきましょう。

①99万円を超える現金

現金の場合、99万円を超えた部分は処分されてしまいます。

②口座残高が20万円を超える預貯金

複数の口座がある場合は、全ての口座の合計残高で判断されます。

例えば、口座Aに10万円、口座Bに8万円、口座Cに7万円あるようなケースでは、単一の口座残高はどれも20万円未満ですが、全ての口座のトータル残高が25万円となるため、5万円が処分の対象となります。

③不動産

土地や家などは、ほとんどの場合処分されてしまいます。

評価額が20万円未満であれば処分を免れるかもしれませんが、現実問題として不動産の評価額が20万円未満ということはほぼありえないでしょう。

持ち家や先祖伝来の土地などであっても、基本的には処分されてしまうと考えてください。

④自動車やバイク

評価額が20万円を超える自動車やバイクは処分されます。
古い型の車やバイクは処分されないかもしれませんが、そうでないものについては要注意です。

また、評価額が低い場合でも、ローンが残っている場合はローンの債権者に所有権があることが多いので、弁護士に依頼した後早期のうちに債権者が自己の所有権に基づいて自動車やバイクを回収(引き上げ)してしまうことがあります。

ちなみに、普通自動車は初年度の登録から6年、軽自動車は同様に4年経っていれば、資産価値が0として扱われる可能性があります。

⑤生命保険の解約返戻金

自己破産するときの解約返戻金の額が20万円を超える生命保険は処分の対象となるので、保険契約自体を解約することになります。

預貯金と同じように総額で判断されるため、3社の保険に加入していてトータルの解約返戻金の額が20万円を超える場合は、全ての保険が解約の対象となります。

しかし、保険がないと不安という人も多いはずです。そういった場合は弁護士に相談してください。保険を解約せずに済むようなアドバイスをもらえるかもしれません。

⑥有価証券類

株式、手形、小切手、社債、ゴルフ会員権などが当てはまります。

これらについては額面や評価額が20万円以下であっても処分されることがあります。

⑦売掛金

事業をしている人の場合、売掛金を債権としていることもあるでしょう。
この売掛金は原則的に処分の対象となります。

⑧その他、高額なブランド品や宝飾品など

単一での評価額が20万円を超え、生活に必要とはみなされない品物は、換価処分の対象となる可能性があります。

⑨退職金

一定の部分が処分の対象となります。これについては後ほど詳しく説明します。

(2) 処分されない財産

続いては処分されない財産を見ていきましょう。

なお、前の項目で述べた内容と対になるもの、例えば「99万円を超える現金」については、裏を返せば「99万円以下の現金」なら手元に残せるため、重複を避けるために割愛します。

①差し押さえが禁止されたもの

家具や家電、衣類や食器(鍋やフライパンなど)は処分の対象となりません。

ただし、家電については、同じ種類のものを複数所持している場合、高額なものから没収されて換価処分の対象になることがあります。

また、ペットは法律上「物」と扱われますが、ペットも差し押さえが禁止されているので、従来通り一緒に暮らすことができます。

②新得財産

自己破産手続開始後に得た財産を「新得財産」と言います。
例えば、手続開始後に行った労働によって得た給料は、その全額を受け取ることが可能です。

③自由財産の拡張がなされた財産

自己破産後も手元に残せると定められた財産を「自由財産」と言います。

自己破産後しばらくは自由財産に頼って生活することになりますが、自由財産だけでは破産者が最低限度の生活すらできないというケースも考えられます。

そこで裁判所は、破産者の生活を考慮して「これは本来自由財産ではないけど、自由財産として認めてあげますよ」という「自由財産拡張」の決定をすることができます。

簡単に言えば、生活上必要な財産の場合には、裁判所から認められたものは処分を免れるのです。

④破産財団が放棄したもの

処分に費用がかかる、または買い手が見つかりそうにないなどの理由から、「換価処分が難しい財産」と判断された財産がこれに当てはまります。

判断するのは換価処分を行う「破産管財人」で、破産管財人が裁判所に許可を求めて最終的な決定が下されます。

2.退職金の扱い

いよいよ本題の退職金です。

退職金については基本的に「破産手続開始時点における退職金見込額の4分の1」が処分の対象となります。

しかし、退職金を回収するには、退職するか勤務先から先払いしてもらうしかないと思われます。
退職するとその後の債務者の生活に支障が出るかもしれませんし、勤務先から先払いしてもらうとその後の勤務に悪影響が出る可能性もあります。

そこで、「退職金見込額の4分の1相当額」を、新得財産などから工面して破産管財人に支払うことになります。

東京地裁は、退職金の処分に関して以下のような運用を行っています。

(1) 退職後の場合

既に退職していても、退職金がまだ振り込まれていないケースです。

このケースでは、将来退職金を受け取ることがほぼ決定しているので、従来通り退職金の4分の1が処分の対象となります。

ちなみに既に退職金を受け取った場合は、それが現金として手元にあるなら「現金99万円まで」、口座にあるなら「預貯金20万円まで」のルールに則って処分が決まります。

(2) 退職間近の場合

例えば、破産手続中に退職が決まっている場合、近い将来に退職金を受け取ることがほぼ確定的です。

この場合も先に述べた通り、退職金の4分の1が処分されます。

なお、「退職金見込額の4分の1」が「20万円未満」の場合は、退職金の全額が処分から免れます。

つまり、もし退職金見込額が80万円未満であれば、退職金の一部でも処分する必要がなくなるのです。

(3) 退職がまだ遠い場合

この場合は、まだ退職金をもらえる確定的な見込みがありません。
そもそも将来会社が存続していない可能性もあるため、退職金そのものがなくなるおそれもあります。

将来に退職金がもらえるかどうかわからない状態なのに、退職金の4分の1を処分してしまうと、破産者が将来退職金を受け取れなくなった場合などに過度な負担を強いることになってしまいます。

そこで東京地裁では、この場合の処分の対象を「退職金見込額の8分の1」としています。

また、この場合も(2)と同様に、「退職金見込額の8分の1」が「20万円未満」の場合は、退職金の全額が処分から免れます。
(もし退職金見込額が160万円未満であれば、退職金の一部でも処分する必要がなくなります。)

【退職金見込額について】
将来の退職金を計算するために、自己破産では、退職金見込額証明書を裁判所へ提出する必要があります。この退職金見込額証明書は勤務先の経理課などから受け取ることができます。
しかし、勤務先に自己破産を知られたくない場合には、退職金見込額証明書の発行をお願いすることも気が引けるでしょう。
この場合、各企業の就業規則にある退職金規定をコピーして、退職金見込額証明書の代わりに提出することで認めてもらえる可能性があります。

3.自己破産のタイミングも含めて弁護士へ相談を

自己破産後に手元に残すことができる財産は、人によって異なります。
何も処分せずに自己破産して借金をゼロにできる方も多いですが、それとは反対に一部の財産を失ってしまう方もいます。

「自分が自己破産をした場合は何を残せるのか?何が処分されるのか?」
自己破産の前に、必ず弁護士に相談して確認するようにしてください。

特に退職金については、退職のタイミングによって受け取れる退職金の額が大きく変わることもあります。
弁護士に相談することで自己破産のタイミングを調整すれば、ベストな結果に繋がる可能性が高いです。

自己破産を検討中の方は、ぜひお早めに、泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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