刑事事件

痴漢事件において示談交渉が大事な理由とは?

痴漢をして逮捕されてしまったら、可能な限り早く被害者との示談交渉を開始するべきです。

示談が成立すると、情状が良くなり、処分を軽くしてもらうことが期待できます。
また、早めに示談できれば、逮捕されても短期間で身柄を解放されたり、前科をつけずに済んだりする可能性が高くなります。

今回は、痴漢の刑事事件において示談が重要な理由と、できるだけスムーズに示談を成立させる方法について、弁護士が解説します。

1.刑事事件における示談の意味とは

もともと「示談」とは、当事者間の話合いに基づく合意で問題を解決することを意味します。

民事事件における損害賠償の問題では、多くの場合、当事者が協議して、賠償金の金額と支払方法を合意し、決まった内容を書面にして証拠として残します。

この合意を民法上では「和解契約」と呼びますが、社会的には「示談」と呼ばれたり、「和解」と呼ばれたりしています。

刑事事件における「示談」も、犯罪行為の加害者と被害者の間で、損害賠償金の金額と支払方法を決めるもので、合意により当事者間に及ぶ効果も含めて、法律的には民事事件の「和解契約」と全く同じものです。刑事事件では「示談」の名称が使われるのは単なる慣行です。

ただし、刑事事件における「示談」は、一般の民事事件と異なる面があります。

一般の民事事件の示談書は当事者間で債権債務関係の証拠として用いられるだけです。

これに対し、刑事事件の示談書は、債権債務関係の証拠として用いられるだけでなく、被害者の被害が回復され、再発防止のための約束がなされるのと同時に、処罰感情が無くなったことの証拠となるように内容を整えます。
そうすることで加害者に有利な情状資料としても利用できるようになり、こちらの機能が刑事事件ではより大切なのです。

したがって、示談にあたっては、次のことが明記されていることが、何よりも重要です。

  • 加害者が誠意をもって謝罪の意思を表し、被害者がこれを受け入れたこと
  • 被害者が示談金を受け取ることによって、被害が回復されたこと
  • 被害者が加害者を宥恕(ゆうじょ…許すこと)すること(※)

※「処罰は望まない」、「宥恕する」、「寛大な処分を望む」などのある程度定式化された宥恕文言の記載で表現します。法的な効果としてはいずれも同じです。

2.痴漢事件における示談の効果

では、現実に痴漢の加害者が被害者と示談を成立させると、どのような効果があるのでしょうか?

痴漢で成立する犯罪には「迷惑防止条例違反」と「強制わいせつ罪」があるので、分けてご説明します。

(1)迷惑防止条例違反

迷惑防止条例は、地域における暴力行為や迷惑行為を禁止するための条例です。各都道府県がもうけているもので、地域によって少しずつ違いがあります。

東京都にも迷惑防止条例があり、そこでは公共の場所や乗り物内における痴漢行為が禁止されています。

迷惑防止条例違反(痴漢)の罰則は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金であり、常習のときは1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑です(東京都迷惑防止条例5条1項、8条1項2号、同8項)。

処分決定前に示談できた場合の効果

迷惑防止条例違反で逮捕された場合、検察官による処分決定前に示談できれば、起訴されずに済む可能性が高くなります。(同種前科や余罪のない場合)

逮捕後勾留されて身柄拘束を受けていても、示談の結果不起訴処分になったらすぐに釈放してもらえます。
不起訴ならば刑事裁判にならないので前科がつくこともありません。

起訴後に示談できた場合の効果

起訴までに示談が間に合わず裁判になってしまった場合には、起訴後でも判決までに示談を成立させられれば刑罰を軽くしてもらえる可能性があります。

ただし、略式起訴で罰金刑を適用される場合、起訴後ただちに罰金刑が決定してしまうため、起訴後に示談を成立させる方法による減刑は期待できません。正式裁判を求めた場合でもこれは同様ですので、略式起訴がされる前に示談交渉にとりかかることは不可欠です。

迷惑防止条例違反の痴漢でなるべく処分を軽くするには、早期に被害者との示談を成立させる必要があります。遅くとも、書類送検後検察官に呼び出されるまでには弁護士に相談するべきです。

(2) 強制わいせつ罪の痴漢における示談の効果

強制わいせつ罪(刑法176条)は、被害者に対して暴行や脅迫の手段を用いてわいせつ行為をしたときに成立する犯罪です。13歳未満の被害者に対しては暴行脅迫がなくても犯罪が成立します。

刑罰の内容は6か月以上10年以下の懲役刑であり、罰金や禁固の刑はありません。つまり、起訴されると必ず通常の刑事裁判となり、略式裁判になる可能性はありません。この場合、前科がついてしまうことはほぼ避けられず、軽い処分を求めるにしても懲役の刑期を短くするか執行猶予をつけることを求めるかしか現実的な可能性がありません。

服の中に手を入れて直接触るなどの悪質な痴漢の場合には、迷惑防止条例違反では済まず、強制わいせつ罪に問われる可能性があります。

強制わいせつ罪のケースでも、起訴前に示談できれば検察に不起訴処分としてもらえる可能性があります。また、起訴後に示談を成立させれば裁判所に刑罰を軽くしてもらえるのが通常です。

強制わいせつ罪の場合、懲役刑しかありませんし、悪質なケースでは初犯でも実刑判決が出る可能性があります。

起訴後であっても示談が成立すれば、刑期を短くし、執行猶予をつけて貰える可能性が出てきます。

3.痴漢示談の成立のため弁護士へ依頼すべき理由

痴漢で逮捕されたとき、示談を成立させるには以下のようなことがポイントとなります。

(1) 弁護士に依頼することで示談を開始できる

示談を進めるには、被害者に連絡を入れて話し合いをする必要があります。
しかし、逮捕・勾留されて身柄を拘束された状態では、被疑者本人が被害者と話し合いをすることは不可能です。

また、犯罪の性質上、加害者は被害者の連絡先すら知らないケースが多数です。

被害者の連絡先を確認するには警察や検察官に問い合わせをして教えてもらう必要がありますが、被疑者が依頼をしても教えてはくれません。被害者の二次被害や捜査妨害のおそれがあるためです。

しかし、紛争解決の専門家であり、守秘義務のある弁護士であれば、被害者の連絡先の開示を受けられる可能性があります。

弁護士が、警察、検察官に被害者の連絡先を聞くと、検察官らは開示に応じて良いかどうか、被害者の意向を確認します(もちろん「弁護士にのみ開示する、連絡先の利用目的は示談のためだけとする、被疑者本人には告げない」ことを条件とします)。

被害者が納得して「弁護士にだけなら開示しても良い」との意向を示したら、検察官らが弁護士に連絡先を開示します。

被害者の連絡先についての扱いは上記の通りなので、被疑者本人やその家族、知人などが被害者の連絡先を確認することは事実上不可能であり、示談するには必ず弁護士に依頼する必要があります。

(2) 被害者の心情を考えて示談を進める

仮に被疑者と被害者が知り合いで被害者の連絡先を把握しているとしても、被疑者が自分で被害者と示談を進めるのは困難です。
通常痴漢の被害者は被疑者に対して強い怒りや恐怖を感じており「関わりたくない」と感じているものだからです。それは相手に身元や連絡先を知られている事実によってさらに強化されます。

被疑者から直接連絡が入った時点で怒りを増幅させて、より処罰感情が強くなってしまう可能性も高いでしょう。

弁護士が間に入ることで、円満解決を希望するというメッセージとなり、被害者も冷静になって、弁護士の話を聞いてみようという気持ちになってくれます。

弁護士は被害者と面談できたなら、例えば、次のような内容を伝えます。

  • 被疑者(加害者)は真摯に反省し後悔していること
  • 心から被害者に謝罪したいと考えていること
  • 被疑者もまた家庭と職場を持つ市民であること
  • 家庭では子煩悩な父親であること
  • 痴漢はおろか、これまで前科、前歴は全くないこと
  • 今回の件で妻を始めとする家族から強く叱責されていること
  • しかし、家族は今後も被疑者を支え、更生させることを誓約すること
  • 長期の身柄拘束や職場に知られての失職等、既に社会的制裁を受けたこと
  • 2度と痴漢行為に及ぶ恐れはないこと
  • もちろん示談成立後は被害者に関わることは一切ないこと

このように、痴漢の犯人であっても、決して凶悪な人間ではなく、ただの一市民に過ぎないこと、示談に応じて許してやることが、被疑者の再犯を防止することにもつながること等を伝え、被害者の理解と納得を求めるのです。

もちろん、被害者側の思いを受け止め、加害者の反省に納得してもらうためには、十分な意思疎通の機会を経ることが必要です。被害者が望むならば、二度三度と話し合いを重ねることも少なからずあります。

(3) 示談金の金額を適正に定められる

痴漢で示談をするときには、金額面での交渉も重要です。

稀に、被疑者・被告人の苦境に乗じて、不当に高額な請求をしてくる被害者もいます。また悪気はなくても、知識がないことからネットで見た情報を鵜呑みにして高額な示談金を要求する被害者も少なくありません。

弁護士であれば、法律の専門家としての立場から先例と事実に照らし適正な示談金を提案し、被害者に理解を求めることが可能です。

用意できた示談金が多くなるほど被害者に受け入れてもらいやすくなることは勿論ですが、被疑者の支払い能力が低い場合には、その事情を丁寧に説明し、それが被疑者側のできる最大限であって、決して誠意が欠けているのではないことを理解してもらえるように努力することが弁護士の役割です。

(4) 被害者が未成年の場合の対応

痴漢事件では、被害者が中高生などの未成年であるケースもよくあります。その場合、示談交渉の相手は「親権者」である相手の親などになるので、より慎重な対応が必要となります。

子どもに痴漢行為をされた親は通常激怒しており「被疑者には厳罰を与えてほしい」「絶対に示談や宥恕などしない」と考えているものです。
被疑者が連絡を入れると「火に油」にしかならないでしょう。

弁護士は、このような困難な状況でも適切に対応が可能です。相手が感情的になるのを抑えて冷静になってもらい、示談で被疑者が二度と被害者側に関わらないこと、偶然にでも被害者と遇う可能性をできるだけ少なくする行動をすること等を誓約させた方が被害者側もより安心であることなど、被害者側の示談に応じることのメリットを始めとして説得を繰り返します。

損得の問題でなく、できるだけ早く被害にあったことを忘れたいという理由で交渉そのものを忌避する方もいらっしゃいますので、そのような場合には更に繊細な対応が必要です。

直接会ってくれる約束を取り付けることができれば、最終的には、被害者の親も納得して示談を受け入れて下さるケースが多々あります。

ですが交渉に応じた親権者の考えと被害者本人や交渉の場にいなかった親権者の意見が食い違うこともあり得ますので、油断せず被害者本人の気持ちを汲んで話し合うことが求められます。

4.痴漢事件を起こしてしまったら弁護士へご相談を

痴漢事件を起こしたとき、「冤罪」でないなら、すぐにでも被害者と示談交渉を始めるべきです。

示談交渉は弁護士に依頼する必要性が高く、自力で成立させることはほとんど不可能と言っても良いでしょう。

泉総合法律事務所では、池袋を中心に、首都圏全域で痴漢事件対応に積極的に取り組んでいます。お困りの際には、どうぞお早めにご相談下さい。

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